【さとう歯科医院】症例写真が少ない理由
大山教室での4年間を終え、開業するに当たって自分の実績を示すデータが欲しいと思っていた。
そこで教授に自分の治療させていただいた患者さんの口腔内スライドをコピーさせていただけないかと相談した。
彼の返事は
「君が実際に担当したんだから、全てよろしい。」
というものだった。意気揚々とスライドをセレクトし、開業予定の自院に持ち込んだ。
そんなある日、残っていた難しい治療の患者さん(私が手を下した大掛かりの治療の患者さんは、開業後も長い間木曜日に大学で診療していた。)から、昔の話を聞いた。
彼女は顎顔面部の大きな外傷を受けており、当時の記憶は定かではないようだった。受傷後、外科的な大手術を受け、その後歯科にも来院していた。
「私、ショックでした。本の検索をしていたら偶然形成外科の学会誌を見つけてしまい、そこで私の病名を知って・・・。形成外科の先生を本当に信頼しておりましたのに、複雑な思いです。」
私は自分のいたらなさを痛感した。
私が自慢したかった大掛かりな治療とは、患者さんにとっては、消し去りたい過去でしかなかった。以来、私のスライドは埃をかぶったままである。