«  2011年12月14日  » 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
2011年12月14日

ある日、アジア系の男性のカルテがあった。日本の美大での研究を終えて帰国し、母国で教授のイスが予定されているという。ところが交通事故に遭い、下の前歯を5本連続で失ってしまった。もはやBr(ブリッジ)適応ではない。
当科講師の先生がCo-Cr(コバルト・クロム合金)の金属床義歯を作ったが、彼は納得しなかった。
「オーノー! これは私の歯ではない。」
それゆえ、教授患者として予約されたのだ。
教授室に報告に行くと、教授は難しさを察して外来に出てきてくれた。

「Kさん、この金属がダメ?」
「そうです。私の歯に金属はついていなかった。」
「じゃあ取ろうか。」
と言ってクラスプをいとも簡単にニッパで切断してしまった。
すごい握力である。
「佐藤先生、『マル模(研究模型)』をとってTEKを作ってもらおう。」
「コーヌスですか?」
「ああ。」

ここからは私の出番。その後コーヌス・クローネ式のクラスプ(バネ)のない義歯を完成させsetの日をむかえた。ここでKさんがまだ納得いかない。
「これ何? 私の歯にこんなのいらない。」
着脱用のノブが気に入らないらしい。またもや教授に来てもらい、指示を仰いだ。
「じゃあKさん、これも取ろうか。」
ノブを切断、研磨してコーヌスデンチャーを装着。
「オー、ドクター。やっと私の歯になりました。」

私の型破りも大山先生の影響を強く受けていると思う。

« 2011年12月13日 | メイン | 2011年12月15日 »

Powered by
本サイトにて表現されるものすべての著作権は、当クリニックが保有もしくは管理しております。本サイトに接続した方は、著作権法で定める非営利目的で使用する場合に限り、当クリニックの著作権表示を付すことを条件に、これを複製することができます。
さとう歯科医院 院長 佐藤達也

さとう歯科医院
http://www.satou-client.jp/
院長 佐藤達也

【ブログの主旨】

「診療雑感」は、私が過去にどのようなことを感じ、どんな診療を行っていたかをまとめたものです。症例写真だけでは技術をお見せすることはできませんが、文章なら私の人間性を語ることができます。 なじみの患者さんが言っていた、「何かあったら、(佐藤)院長が出てきてくれるんだから、俺は今の先生を信頼してお任せしていますよ。」とは、ありがたいひと言である。


【経歴】

1988年 東京医科歯科大学卒業

1988年~1990年 東京医科歯科大学研修医修了(2期生)

1990年~1998年頃 東京医科歯科大学・障害者歯科学講座・顎口腔機能治療部において、大山喬史教授(当時の病院長、現在学長)の指導のもと、教授診療助手のチームリーダーとして、難易度の高い義歯や著名人・芸能人の審美歯科治療を担当。

1991年~1998年頃 障害者歯科学講座・障害者歯科治療部において、有病者の歯科治療。

1992年6月 大田区東雪谷にて開業。

2004年9月 現在住所(隣)に移転。