【さとう歯科医院】占い
大学病院時代、教授の患者さんで高名な女性占い師がいた。
全盛期時代は三越本店をはじめ多くのデパートで占い教室を持ち、テレビ番組もあったという。
ある日担当させていただいたところ、非常に気にいっていただけた。
「先生うまいわ!他の若い先生と違う。名前観てあげる。」
「あんた、すごい優秀、頭も切れるわね。」
石川台で開業した後も来院していただき、
「わざわざ遠くからお越しいただき、ありがとうございます。」
と言ったところ
「冗談じゃない!私は忙しいの。お世辞で来る気なんかありゃしない。あんたの腕を見込んで来たのよ。大学に残っていたって別の若い先生たちが担当医になるんでしょう?」
そう言いつつも返す刀でという言葉があるように、ウチのスタッフを勧誘する。
「主婦だってお金が必要でしょう?占いを習ってお小遣い稼ぎしない?」
誰も乗り気にならないので、私が恐縮してしまった。元来、人がやらないことで世の中に必要だと思ったことをやりたいタチである(タダの変人か?)。男性占い師で表に立つ人もあまり見られないようにも思った。
「先生、私が習ってはダメですか?」
「あら先生?いいわよ。何曜日が都合がいいの?」
以降デパートのカルチャーコース(初級)から始まり、医院が1Fに移転するまで14年間程ご自宅で指導を受けた。その間、主催する教室の理事や「日本占術協会」の会員にも推薦していただいた。
たまに「歯科医師免許」ではなく「占い師免許」を掲げたい気分になるが、初めての方にとってはあまりにも怪しすぎるので自重している。
お付き合いの長い方や、お困りの方にさりげなくお伝えするようにしている。
ある日のこと、古くからの患者さんが来院された。
「原宿の美容師さんから『あなたの家の近くに良く当たる占い師さんがいる』って聞いたんだけど、先生のことなんですか?」
「そんな所まで?ああ、その人なら前に観たことがあります。ご両親が相談にいらしてね。」
彼女の場合、最初は「別に何も」とか「今年の運勢」とか言っていたが、雰囲気から先があるとみて休憩時間も続けた。
ついに出てきた核心は「永すぎた春」を「ハッピーエンド」にしたいというものだった。
こういう決断の場合は「易」が相応しい。厳しい解答でも受け止めてくれるか、他の方法で流れをお伝えする方が良いのか尋ねたところ、迷った挙句であったが決断したいとのこと。
「易」は普通はぜい竹という竹の棒でやるが、場所をとるし、かさばるので中級者以上が使える(らしい)サイコロを使った。
出た掛は「地天泰五爻」
「とてもはっきり出ました。○○○してください。すぐにやらないとダメですよ。」
「はい、わかりました。やってみます。」
彼女の行動力は素晴らしかった。
翌日、彼女の母親からお礼の言葉と立派な果物をいただいたのであった。