【大学病院】教授秘書
会議、指導、予算獲得、講演、講義、診療、などなど、多忙をきわめる教授にとって有能な秘書は欠かせない。
一方、教授の診療をささえる私にとっても、彼女はなくてはならない存在だった。
彼女は教授の行動を把握しており、あと何分ぐらいで教授室に戻ってくるか、随時私に伝えてくれた。そればかりでなく、むずかしい話が可能かどうかの雰囲気までも。また、教授室でよくコーヒーをいれてくれた。
厚顔無恥な私は、すすめられるままにソファーのなんと教授の席でコーヒーを飲んでいた。教授室のすりガラス付きの扉越しに私を見て、教授と間違えてドアをノックした人のなんと多いことか!名家の長女だった彼女は、家でのしつけも厳しく、幼少の頃から接客することも多く、それゆえ「お客さまによろこんでいただくことも、早々にお帰りいただくこともできます。」と言っていた。
おかげで教授が戻るやいなや本日の治療予定を「勧進帳」のごとく読み上げ、すばやく実行に移すことができた。
本当に感謝しています。彼女にまつわる逸話は多いが、これはまたの機会に。
あるとき彼女から友人同士で飲み会をやらないかという誘いを受けた。後から思うと、彼女の友人と私を引き合わせたいということだったらしい。そうとも知らず、彼女の連発する「佐藤先生はイイ人なの。本当にイイ人なのよ。」に違和感を覚え、翌日抗議した。「イイ人とは何事ですか?男はどうでもいい人とは言われたくない。」
その時初めて彼女の怒りの表情を見た。
「私は先生が素晴らしい、立派な方だと思い、そう申し上げたつもりです。」
翌日、謝りに行ったところ機先を制された。
「先生、私の考えが足りませんでした。佐藤先生のどんな所がどのように素晴らしいかを話さなければ、話が伝わりませんよね。今後は気をつけます。」
かないませんね。スクラム同様押すことしか知らない私は引かれると滅法弱いのです。