【大学病院】本当だったら
研修医修了後に学外に出る友人がいた。彼の患者さんリストの中に弁護士希望の女子大生がいた。決して有名法科ではないながら、大学卒業後に予備校に入り、司法試験を目指すという。
今も昔も私はそういうのに弱い。
「J子ちゃんをちょうだい。」と友人にお願いして、引継ぎをしたのはいいものの、私個人の治療日と彼女の大学のカリキュラムが咬み合わない。意を決して会ったこともない彼女の親に宛てて長文の手紙を出した。
<手紙の内容>
彼女の大きな志に比べてお口の中の状態の悪さに何とかお助けしたいと思います。本当だったらこの歯を助けて、本当だったらこの歯を抜いて、親知らずを移動させ、矯正を含めて大掛かりな治療が必要です。彼女の試験本番のときに歯が痛んで困るような事態は何としても避けたいのです・・・。
幸いにしてか、あきれられてか、OKの返事をいただいた。
ただし、特殊治療室で普通の女の子が矯正治療まですることになった。
掟破りの進退をかけた治療は、その後も次々と舞い込み、私のトレードマークとなってしまった。